広島高等裁判所松江支部 昭和28年(う)10号 判決
各所論に鑑み、訴訟記録及び原裁判所が取り調べた証拠を精査するに、被告人は警察署における取調当時以来、恰も、被害者たる池坂岩男が所持していた兇器を奪い取つたものゝ如く供述しているけれども、池坂が兇器を所持していたとの被告人の右弁解を是認するに足る資料は全くない。却つて、原判決挙示の各証拠を綜合すれば、被告人自身が「大型ナイフ」のような兇器を携帯していたという事実を推認するに難くない。而して、被告人が右兇器をとり出して池坂の上腹部を突刺し、よつて原判示の如き刺創を負わせ、同人をして失血のため死亡せしめるに至つたことは明らかであつて、結局原判示事実中、被告人が池坂を殺害せんとの犯意に出でたとの点を除き爾余の部分は、これを認めるに足るものということができる。唯、犯意の点につき、被告人が傷害の犯意に出でたことは、容易にこれを認めることができるに反し、被告人が池坂を殺害せんと決意したということは、原裁判所が取り調べたすべての証拠によつてもこれを断ずることができない。然らば、殺人の事実を認定せる原判決には、事実の誤認があつて、その誤認が判決に影響及ぼすこと明らかであるから、原判決はその破棄を免れない。